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生と死 |
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死に近づくことを否定すれば生きることもできない。
生きることは死に近づくことである。
個体は死に近づいて歩くからこそ、生きることができる。
● 物質と個体@
この世界に存在する物質。
この世界の物質は、減ることも増えることもない。
物質は消滅も生成もしない。
物質は、ただその形質を変化させる。
我々の人間の目には、物質が消失しようたようにも生成したようにも見えても
それは、形質を変化させただけで増減はない。
物質は生成も消失もしない。
我々の脳もそれをア・プリオリ(先天的に)に理解している。
だからこそ、誰もが物体消失のマジックを見ると驚く。
仮に現実に、物体が瞬時に消えるようなことがあるならば、物体消失のマジック
を見ても誰も驚かないだろう。
有りうるね!などといっていることだろう。
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● 物質と個体A
これに対して、個体(=個々の生命)には生と死が訪れる。
いきとし生けるものは、生まれてはやがて死ぬ。
この世界は諸行無常。
あらゆるものは変化し、形を変えていく。
個体が生まれては育ち、その種の有ろうとする姿を表現する。
その個体も衰え始める前に、子を生み、子を育てる。
それを見届けて親には死が訪れる。
またその子も成長し、その種が有ろうとする姿を表現する。
種は、個体を随時入れ替えていく事でこの世界に対処した。
種はその方法で、その種を永続的に保とうとする。
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● 種と個体
自然は、各個体の存在(個々の生命)には、まるで興味がない。
その個体が生きようが死のうが、自然はまったく気にしない。
自然の上で繰り広げられる弱肉強食の舞台を遠くから眺めている。
自然は無慈悲である。
各個体の生き死に対して、決して手を差し伸べない。
自然は傍観するのみである。
なれど、自然は種を保つことには慎重の上にも慎重を重ねる。
あらゆる種には、この世界で絶滅しないように様々に異なる能力を備えさせた。
ある者達は、鋭い爪と強力な顎によって獲物を捕らえる。
ある者達は、擬態して自然の中に紛れ込んで天敵から逃れる。
ある者達は、その圧倒的な個体数の数によって、未来にその種を届ける。
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● 物質と個体、そして作用
物質にとって作用とは、つまり変化を表す。
我々が表象上で描いている物質は、どこまでも作用である。
それゆえ、物質を探究する科学とは作用の学問である。
(作用=物質=科学)
個体にとっては、作用とは生であり同時に死に向かうことである。
個体にとっては生きることは活動であり、それゆえに死に向かうのである。
生きるからこそ死ぬのであり、死ぬからこそ生きれるのである。
死ぬからこそ生まれるのであり、生まれるからこそ死ぬのである。
個体に比べて物質には死などはない。
物質は消滅しない。それゆえに物質は生成もしない。
物質は、作用によって変形変化する。
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● 物質と時間
物質のあらゆる変化は時間の流れに沿って変化を行う。
なれども単なる時間の経過によって、物質が影響を受けることはない。
物質は、直接、時間の影響を受けない。
時間が10年経過しても100年経過しても、物質はまったく影響を受けない。
物質が影響を受けるのは、あくまで作用(因果)によってである。
仮に作用がなければ、物質は、一万年でも一億年の経過でも、まったく
ビクともせずに、そのままであり続ける。
物質は作用によって変形・変化する。
物質は因果律によって規定されている。
これを否定すれば科学など成り立たない。
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● 個体と時間
また個体も物質と同様の姿を見せる。
数万年前の植物の種も、作用がなければ(乾燥した壷の中に閉ざされて酸化も
せず、上手に保存されたならば)、現代にあっても条件が整えば花を咲かす。
我々個体が生きる時、つまりはその時は時間の上に沿って活動する。
なれども、冷凍技術が発達して、個体(生き物)の活動を停止させることができ
多くの作用が入り込むのを防げたならば、いずれ未来では、人間であっても
冷凍装置の中で長い間、眠って数百年先に目覚めることも可能であろう。
なれどもその時に、その冷凍された時期にはその人間は、作用がないゆえに
それゆえ生きているとはいえない。
死に近づくことを否定すれば生きることもできない。
生きることは死に近づくことである。
個体は死に近づいて歩くからこそ、生きることができる。
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● 因縁因果と諸行無常
人類が生んだ天才・釈尊が2600年以上前に述べたように、この世界は
因縁因果、諸行無常の世界である。
あらゆる物が変化していき、それが他の原因となって作用として結果が
もたらされる。その結果もまた他のものの原因となって結果がもたらされる。
あらゆるものが原因となり、それがある結果をもたらし、次々と複雑に作用して
世は移ろいいく。
その世界の中で、その大地の上に人間は立っている。
人はこの大地の上に生まれて、そうして人は、この大地の上で死ぬ。
そうして、また人が生まれ、新しい個体がこの大地の上を駆け回る。
そうやって数千年、数万年の昔からその営みを繰り返してきた。
次から次へと個体が入れ替わる。命を次につなげる命のリレー。
人間の一生など、はかないものではある。
なれど、また我々は確かに今、この大地に生きている。
そうして、次に生きる者たちへそのバトンを渡す。
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● 生きること、死ぬこと
生きとし生けるものは、死に向かって生きている。
生きることは、つまりは死を受け入れることである。
死にたくなければどうすればよいか?
答えは簡単である。生きなければ良い。
なれども死を受け入れなければ、生きることもままならぬ。
生きるからこそ死が近づいている。
死があるからこそ生がある。
死の意味を知るからこそ、生が輝く。
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● 生と死、そして芸術
もし仮に人間に生と死がなければ、どうして美に憧れることが起きるだろうか?
人間は生まれて死ぬからこそ、美に価値を抱くのである。
生と死が繰り広げられる現象界。
イデアは、物質を占有し現象界に姿を現す。
物質は変形変化し、固体は生まれ、そしてやがて死ぬ。
なれどもイデア自身は、時間と空間の影響をまるで受けない。
この世界にあって永続する。場所を問わず時間を問わずに存在する。
レオナルド・ダヴィンチ作
その世界を天才たちが捉える。
それらの世界を芸術の技によって表現する。
仮に人間に生き死がなかったとしたら、誰がイデアの世界に憧れるだろうか?
青年ほど、美の存在に敏感なものはいない。
なぜなら、彼らは死の意味を、誰よりも強く感じているからだ。
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● 意志と表象の世界@
この世界は、意志と表象の世界である。
いきとし生けるものの奥に生きんとする意志がある。
その意志を有する我々の脳の中に、表象の世界が描かれた。
その表象の世界の上でまた我々は生きている。
その世界の上で、物質は変形・変化する。
個体は、生まれては成長し、そして死が訪れる。
そしてまた生まれ育ち死が訪れる。
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● 意志と表象の世界A
意志と表象の世界で繰り広げられる命の営み。
まさに諸行無常の響きあり、盛者必衰の理を表す。
もし仮に人間の死が単なる個体の死とだけ見るならそれは孤独であろう。
しかし、その死の営みを越えて、人間の種としてみれば、その人の死は
明日への生とつながる。
さらにこの世界の営みを、意志と表象とが繰り広げる世界であると見たならば
我々は、あらゆる時代、あらゆる場所を越えてつながることを確信するのだ。
意志は時間と空間を越えて、我々の奥には、生きんとする盲目な意志がある。
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● 生と死を越えて@
生命は、生と死を繰り返している。
人類も幾千年の悠久の時を、生と死を繰り返して、この大地の上に立っている。
それでも、人々は、生と死を越えて残り続けるものを信じている。
いつの時代の人々も、その生と死を越えても存続する何かを感じてる。
我々の一生は、この地球上の昼と夜のごとくである。
太陽がさんさんと照り続ける昼が生である。
太陽が沈み、闇に包まれた夜が死である。
『国宝の旅』より
辺りをさんさんと照りつける日の光によって、周囲を見渡せば、多くの建物と
青々とした木々が、我々の目に写る。
壮大な大自然の風景は人間の心を和ませる。
されど夜になれば一転、それらの建物や木々は闇に消える。
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● 生と死を越えてA
なれど天空を眺めれば満天の星空があり、夜空は輝いている。
太陽が照りつける昼には、それらの星々はまるで見えない。
だからといって、それらの星々は、昼間に存在しなかったわけではない。
人間の目では捉えられないだけで、そこに星々は存在していた。
宇宙の星々は、いつも天空に存在する。
昼間において人間の目に見えずとも存在している。
我々の生と死もこれと同じである。
生きている時には、まるで見えないが、何かがそこにはきっとある。
その何かは、生きている時には見えぬが、死の世界ではきっと夜空に満天の
星々となって輝いて見える。
また反対に死の世界においてまるで見えないものが、現在、我々が存在する、
この世界の上にもきっと存在する。
夜の世界では真っ暗で何も見えないが、その闇の向こうには雄大な自然の
景色が広がっているように。
朝日が昇ると、その闇の中から美しい景色が立ち現れる。
その景色は、太陽がさんさんと照りつける昼間において輝きを放つ。
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● 生から死の刹那
人間に死が訪れる瞬間、その刹那、人間はきっと気づく。
生の世界ではまるで見えていなかった、その何かの存在を知る。
そして生の世界で見ていたものの多くが死の世界では闇の中に消えていく。
日が陰り、辺りが夕闇に包まれ始めたとき、天空には、うっすらとだが、
無数の星々が顔を出し始めている。
いままで我々の目を楽しませてきた大自然の風景は、陰影を描きながら
その闇の中へと消えていく。
昼から夜へ移ろうごとくに、我々の生も死へと移ろう。
昼から夜へと移行するまさにその刹那、辺りは真っ赤な日の光に包まれる。
地平線の彼方で光輝く美しい夕日は、この地上のあらゆるものを
真っ赤に染めて、この大地に生きる者達の心を捉えて離さない。
人間がその生をまっとうし、死へと移行する、まさにその時、真っ赤な夕日に
勝るとも劣らない何ものかに出会い、その存在を知るのだ。
『国宝の旅』より
動画 テキスト
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